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那覇地方裁判所 昭和53年(ワ)264号 判決 1980年1月22日

原告 国場幸太郎

被告 国 ほか二名

代理人 渡嘉敷唯正 幸喜令雄 比嘉哲夫 ほか三名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告と被告那覇市との間において、原告が別紙目録の土地のうち別紙図面の1、C、D、E、F、G、G′、44、45、46、47、48、1の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分一、二五四・九九八五平方メートルにつき所有権を有することを確認する。

2  被告那覇市は、原告に対し、第1項の土地の部分について分筆登記手続をした上、昭和二四年一月一日取得時効を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3  原告と被告沖繩県との間で、原告が別紙目録の土地のうち別紙図面のb、44、G′、H、bの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分二二四・七五平方メートルにつき所有権を有することを確認する。

4  原告と被告国との間で、原告が別紙目録の土地のうち別紙図面のa、B、1、48、47、46、45、aの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分六三七・三九平方メートル及び同図面のA、a、45、44、b、Aの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分三一七・五五平方メートルにつきそれぞれ所有権を有することを確認する。

5  訴訟費用は、被告らの負担とする。

二  被告ら

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙目録の土地のうち、別紙図面の1、C、D、E、F、G、G′、44、45、46、47、48、1の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分一、二五四・九九八五平方メートル(以下「本件(イ)の土地部分」という。)、同図面のa、B、1、48、47、46、45、aの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分六三七・三九平方メートル(以下「本件(ロ)の土地部分」という。)、同図面のA、a、45、44、b、Aの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分三一七・五五平方メートル(以下「本件(ハ)の土地部分」という。)及び同図面のb、44、G′、H、bの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分二二四・七五平方メートル(以下「本件(ニ)の土地部分」という。)は、もと公有水面(海)であつた。

2  原告は、もと公有水面であつた本件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分について、昭和二二年四月から同年五月にかけて第一次埋立工事を行ない、次いで、昭和二三年一〇月から同年一二月にかけて第二次埋立工事を行なつて埋立てを完了し、遅くとも、昭和二四年一月一日から右各土地部分に養魚場を造つたり、野菜を栽培するなどして占有を開始し、以後、二〇年を経過した昭和四四年一月一日まで右占有を継続した。

3  原告は、本件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分について埋立工事を行なうに当たり、公有水面埋立法に基づく埋立免許又は竣工認可等を受けなかつたが、右埋立工事を行なつた当時、終戦直後の混乱期で、沖繩県は米国海軍占領下にあり、米国海軍軍政府布告第一号(いわゆるニミツツ布告)により公有水面埋立法(昭和二四年法律第一九六号で改正前の大正一〇年法律第五七号。以下「旧埋立法」という。)が効力を持続されたとはいえ、公有水面埋立免許事務を取り扱う政府部署は存在していなかつたものであり、代りに、右各土地部分を含む那覇軍港一帯を管轄していた米国陸軍第六一輸送部隊の部隊長エレン大佐から埋立許可を得て、適法に埋立工事を行なつたものである。そして、本件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分は、埋立完了後は海面から土地に変化し、被告らにおいて直接公共の用に供していたものではないし、また、直接公共の用に供するものと決定したこともないので、当初から普通財産にすぎず、取得時効の対象になる。仮に、普通財産でないとしても、本件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分は、海面として本来の用に供されることがなかつたし、原告の平穏公然な占有が許容され、しかも、原告の占有からは実際上の不都合を生ぜず、被告国も原告の占有に対し何らの手段を講ずることなく放置して来たものであるから、公物そのものとして、あるいは黙示的に公用が廃止されたものとして取得時効の対象になるというべきである。

原告は、本件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分について本訴において取得時効を援用したから、昭和二四年一月一日にさかのぼつて所有権を取得した。

4  しかるに、被告那覇市は、同被告が本件(イ)の土地部分について所有権を有すると主張し、被告沖繩県は、同被告が本件(ニ)の土地部分について所有権を有すると主張し、被告国は、同被告が本件(ロ)及び(ハ)の各土地部分について所有権を有すると主張して、それぞれ、原告の右各土地部分についての所有権を争う。

よつて、原告は、被告らに対し、それぞれ、請求の趣旨記載の所有権の確認又は所有権移転登記手続を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1のうち、本件(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分がもと公有水面(海)であつた事実は認め、その余の事実は否認する。本件(イ)の土地部分は、もともと陸地であつた。

2  請求原因2の事実は否認する。本件(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分については、琉球政府が昭和四六年一一月一一日又は昭和四七年二月一五日に埋立免許を受けて埋立工事を行ない、その後、沖繩の本土復帰に伴い、右埋立免許に関し琉球政府の地位を引き継いだ沖繩県が右工事を完了したものである。

(被告国の付加的主張)

戦前の国場川は、ほぼ河口中央部に位置する離れ小島をはさんでその南北を流れ、那覇港湾内で再び合流して海へ注いでいたところ、同小島の東側一帯の公有水面は、本件(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地を含め、深いところで約三メートルの水深を有する漫湖となつていた。戦後、米軍は、那覇港湾の修復整備をし、その拡張及びしゆんせつ作業から出る土砂を右の南側河口に投棄したために同河口はふさがれ、昭和三四年頃には、右各土地付近は、湿地状を呈するに至つた。米軍は、三九年六月ころにも大がかりなしゆんせつ作業を行なつて土砂を投棄し、更に、琉球政府も奥武山運動公園の整備や施設工事に伴う余剰土砂等を投棄したため、右各土地付近は、昭和四三年頃には、葺の生える湿地となつていた。

そこで、前記のとおり、琉球政府において昭和四六年一一月頃から埋立工事を行ない本件(イ)、(ロ)及び(ハ)の各土地部分を土地化したものである。

3  請求原因3は争う。

(被告国の付加的主張)

現行公有水面埋立法によれば、公有水面を埋め立てて造成した埋立地について所有権を取得するには、当該埋立工事を行なう者において埋立免許及び竣工認可を受けなければならず、埋立免許を受けないで行なつた埋立工事に係る埋立地については、当該埋立行為が犯罪を組成し処罰の対象になるほか、当該埋立工事に係る公有水面を原状に回復させるか、原状回復義務を免除した上当該埋立工事に係る公有水面にある土砂その他の物件を無償で国の所有に属させることができることになつているから、埋立免許を受けないで埋立工事をした者が当該埋立工事に係る埋立地につき所有権を取得することはない。本土復帰前の沖繩では、まず、昭和二〇年四月一日に発布された米国海軍政府布告第一号(いわゆるニミツツ布告)により、当時効力を有していた旧埋立法がそのまま効力を持続するとされ、次いで、琉球政府立法院が一九六二年(昭和三七年)八月一七日、立法第七九号をもつて、あらたに、公有水面埋立法を制定したが、公有水面の埋立てに関する規制は、埋立免許を受けないで行なつた埋立工事に係る埋立地につき、原状回復の必要のないと認められるときにおいて追認を受けることにより所有権を取得することができた点を除いて、現行公有水面埋立法のもとにおけるのと同様であつた。なお、米国民政府は、一九五三年(昭和二八年)三月三〇日付けで布令第一〇六号「土地の埋立」を公布し、琉球政府が一九六二年(昭和三七年)立法第七九号公有水面埋立法の立法措置をとるまでは、米国民政府において同政府以外の者のする公有水面埋立てに関するすべての埋立工事申請業務を臨時機関として行使することとしたが、旧埋立法が引き続き効力を有することを確認した。すなわち、同布令の施行前に旧埋立法によつてした処分及び埋立免許を受けないで行なわれた埋立ての処理については、琉球政府において立法措置が講ぜられるまでは旧埋立法の規定に基づき同政府によつて行なわれることになつた。

以上のような公有水面の埋立てに関する規制は、埋立免許を受けないで行なつた埋立工事に係る公有水面が当該埋立工事により現況が土地となつても依然として公物であり、黙示による公用廃止ということもあり得ず、取得時効の対象にならないとしなければ、その目的を達することができない。

(被告那覇市及び被告沖繩県の付加的主張)

現行公有水面埋立法によれば、埋立免許を受けないで行なつた埋立工事に係る埋立地については、原状に回復させるか、原状回復義務を免除した上当該埋立工事に係る公有水面にある土砂その他の物件を無償で国の所有に属させることができるとされており、当該埋立工事に係る埋立地は、依然として公物であるから、取得時効の対象にならない。

4  請求原因4の事実は認める。

三  被告らの抗弁

仮に、原告らにおいて本件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分について埋立てを行ない、右各土地部分が取得時効の対象になり得るとしても、原告は、右各土地部分の公有水面が原告の住居に近接して危険であり、また、汚染されていたので、環境整備の目的で埋立てを行なつたにすぎず、右各土地部分の占有を開始するに当たり所有の意思を有しなかつた。また、原告は、埋立免許を受けないでした埋立工事に係る埋立地が国の所有に属し、所定の法的手続を経なけければ当該埋立工事をした者が所有権を取得することがないことを知つていたものであり、更に、埋立免許を受けないで埋立工事をして埋立地を造成した者については客観的性質による自主占有を生じさせる余地もないから、これら点からも、所有の意思を有しなかつた。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因4の事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因1のうち、本件(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分がもと公有水面であつた事実は、当事者間に争いがなく、本件(イ)の土地部分がもと公有水面であつた事実は、原告主張の写真に<証拠略>により認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  請求原因2のうち、原告がもと公有水面であつた本件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分について、昭和二二年四月から同年五月にかけて第一次埋立工事を行ない、次いで、昭和二三年一〇月から同年一二月にかけて第二次埋立工事を行なつて土地化させた事実は、<証拠略>並びに弁論の全趣旨により認めることができ、<証拠略>によれば、琉球政府において昭和四七年二月一四日、那覇市通堂町三丁目四四番地先について埋立免許を受け、同月二〇日ころから埋立工事に着手したことが認められるものの、その範囲は明確ではないから、右各証拠は、右認定を覆すに足りるものでないし、丁第九ないし第一一号証の各航空写真及び丁第一二号証の二五、〇〇〇分の一の地図も、合計面積がわずか二、四三〇平方メートル余りの右各土地部分の状況を正確に判断することはできないというべきであり、その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

四  右二及び三で認定のとおり、原告は、もと公有水面であつた本件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分について、昭和二二年四月から二三年一二月にかけて埋立工事を行ない土地化させたものであるところ、原告は、原告において右埋立工事をするに当たり公有水面埋立法に基づく埋立免許及び竣工認可を受けなかつたが、右埋立工事完了後昭和二四年一月一日から二〇年間右各土地部分の占有を継続し、その所有権を時効取得した旨主張するので、この点につき判断する。

現行公有水面埋立法は、公有水面を埋め立てて造成した埋立地について、埋立免許を受けた者が竣工認可を受けなければ所有権を取得しないとし、他方、埋立免許を受けずに公有水面につき埋立工事を行なうことを犯罪として処罰の対象とするほか、埋立免許を受けないで行なつた埋立工事に係る公有水面は原状に回復させるべきものとし、ただ、原状回復の必要がない又は原状回復をすることが不能なものについては、当該埋立工事に係る公有水面にある土砂その他の物件を無償で国の所有に属させることができるとするが、右の趣旨は、自然の状態のままで一般公衆の用に供されている公有水面について、利害関係人の利害を調整しつつ適正かつ合理的な国土の利用を図るため、厳重に埋立てを規制しようというものであるから、公有水面を埋め立てて造成した埋立地について所有権を取得するには同法所定の手続によるほかはなく、たとえ、埋立免許を受けないで違法に埋立工事を行なつて埋立地を造成した者が当該埋立工事に係る埋立地につき占有を継続したとしても、その所有権を時効取得する余地はないというべきである。

沖繩においては、原告が本件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分について埋立工事をした当時、昭和二〇年四月一日に発布された米国海軍政府布告第一号(いわゆるニミツツ布告)により効力を持続するとされた旧埋立法が公有水面の埋立について適用され、その後、一九六二年(昭和三七年)立法第七九号の公有水面埋立法が琉球政府立法院において制定され、同年一一月一日から沖繩の本土復帰のときまで施行されていたのであるが、右各法による公有水面の埋立てに関する規制は、埋立免許を受けないで行なつた埋立工事に係る埋立てで原状回復の必要のないものについて追認を受けることにより埋立免許を受けたものとみなされる余地があつた点を除いては、現行公有水面埋立法のもとにおけるのと同様であつた。したがつて、本土復帰前の沖繩に施行されていた右各法のもとにおいても、埋立免許を受けないで違法に埋立工事を行なつて埋立地を造成した者が当該埋立工事に係る埋立地の所有権を時効取得する余地のなかつたことは同様であるというべきである。なお、原告は、本件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分について埋立工事をするに当たり、米国陸軍第六一輸送部隊の部隊長エレン大佐の埋立許可を得たと主張するが、同大佐の職務権限等は明らかでないし、同大佐の埋立許可がどのような法的性格のものかも明らかでないから、同大佐の埋立許可のあつたことが、右の結論に差異を及ぼすものではない。

右に判示したとおり本土復帰前の沖繩に施行されていた右各法によれば、原告が本件(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の各土地部分について埋立免許を受けずに違法に埋立工事をして以来、原告の主張によれば取得時効が完成したという昭和四四年一月一日までの間、一貫して、埋立免許を受けないで違法に埋立工事を行なつて土地を造成した者が当該埋立工事にかかる埋立地の所有権を時効取得する余地はないとされていたものであり、この点については、現行公有水面埋立法によつても同様であるから、原告の右主張は失当である。

五  以上によれば、原告の本訴請求は、いずれも、その余の点について判断するまでもなく失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井真治 玉城征駟郎 向井千杉)

目録

沖繩県那覇市奥武山町四四番 拝所 五四、七六三平方メートル

別紙図面 <略>

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